本研究の目的は、全社的な利益管理と、それぞれの製造現場で実施される原価管理との結びつきを検討するものである。平成20年度は、本研究の一部成果を「原価改善と利益管理」として日本会計研究学会第67回全国大会で報告した。本研究報告では、トヨタ自動車においては、1950年の経営危機の際に、経理部門が行なった経理規定の整備が製造部門をはじめ全社内に原価低減意識を植え付けたこと。他の要因とともにそれも一因となって、経理部門が伝統的な標準原価計算に基づく原価管理を実施するよりも前に、製造現場において原価改善のシステムが生み出されたこと。その結果、製造現場の管理は製造部門に委ねられ、経理部門と棲み分けられるようになったこと。そして、経理部門は原価改善に沿う形の利益管理システムを構築せざるを得なくなったことを明らかにした。すなわち、本研究報告は、管理会計システムを通じて、製造部門の現場組織の自律化が促された可能性があることを指摘した点において意義がある。しかしながら、全社的な予算管理システムと原価低減システムとの結びつきについては、まだ具体的な論及には至っておらず、これを明らかにすることが次年度における研究の課題となっている。本研究報告および次年度の研究のため、本年度は文献研究を中心に行ない、文献・資料については十分に収集した。だが、文献・資料から得られる情報やデータは限られている。そのため、次年度以降はヒアリング調査を中心に研究を進めていき、本研究の目的を遂行する予定である。
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