契約交渉過程において不適切な情報が提供された結果、情報を提供された相手方が想定していなかった契約が成立し、その契約に拘束されてしまうことがある。その際に、契約関係からの離脱を認める方向での解決は検討されているが、契約関係を維持した上で相手方が望まなかった契約の適正化を図る方向での解決の検討は不十分である。相手方が想定していた契約から生じる効果を導き出すことができないのか、その場合にはどのような制度が用いられるのか、統一的な効果を導くことは可能なのか。本年度の研究では、フランス法における情報提供義務に関して、とくに、情報提供義務の向けられている方向とその義務違反の場合の効果について、裁判例、学説を調査・研究した。 検討は、ドイツ法研究によって得られた視点を意識したうえで行っている。すなわち、(1) 情報提供義務違反の態様として、誤情報提供と情報提供懈怠とがあること、(2) 提供されるべき情報の対象として、契約の目的(物又はサービス)、契約の目的の周辺事情、価格の3つが区別されうること、(3) 適正化の方法としては、損害賠償等の金銭的調整、契約としての履行、特定の契約条項の排除がありうること、(4) 金銭的調整の方法としては、契約の目的の客観的価値を基準とする方法と、適切な情報を提供されなかった当事者が期待した価値(仮定的価値)を基準とする方法があることである。フランス法の調査・検討は現在も継続中である。
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