これまで我々は、8方向放射状迷路課題で測定されるラットのワーキングメモリーに前頭前野グルタミン酸作動性神経伝達が重要な役割を担うことを明らかにしそきた。したがって、本研究においても、モニタリング機能に及ぼすグルタミン酸レセプター拮抗薬の効果を検討することを予定している。しかしながら、霊長類では、ワーキングメモリーにおける前頭前野ドーパミン神経伝達の関与が強く示唆されている。そこで、まず神経化学的研究の標的を明確にするため、6-hydroxydopamine(6-OHDA)による前頭前野ドーパミン神経の選択的な損傷がラットの放射状迷路課題遂行に及ぼす影響を調べた。その結果、6-OHDA損傷群では、対照群と比較して、前頭前野のドーパミン含量が有意に減少していたにもかかわらず、課題の遂行には差が見られなかった。よって、ラットにおける前頭前野ドーパミン神経伝達は、放射状迷路課題遂行に関与しないことが示唆された。つぎに、モニタリング機能における前頭前野の役割を検討するため、ラットに遅延挿入放射状迷路課題を訓練した。この課題では、2時間の遅延によって1試行が前半と後半に分けられた。動物が課題を成功裡に遂行するには、遅延の間、自らの選択反応に関する空間情報を保持する必要がある。本研究では、遅延中にさらに別の空間処理をラットに課すことにより、モニタリング機能を測定する予定である。訓練にかなりの試行数と時間を要する複雑な課題ではあるが、現在予備検討を終え、薬物投与のための動物を使った実験が着々と進行中である。
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