NMDA受容体を介したグルタミン酸作動性神経伝達は、8方向放射状迷路で測定されるラットのワーキングメモリーに重要な役割を担う。標準的な放射状迷路課題では、8本のアームに置かれた餌を効率よく取ることが要求される。はじめに、本研究では、この課題の1試行を2時間の遅延によって前半と後半に分けた遅延挿入放射状迷路課題をラットに訓練した。ラットは、8本のアームの中から4本を選択した後、いったん迷路から取り出され、遅延後に残りの4本を選択する。したがって、課題を成功裡に遂行するには、遅延の間、自らの選択反応に関する空間情報を保持しておかなければならない。つぎに、この保持過程の根底にある脳内機序を明らかにするため、遅延期間中に類似の空間情報処理を必要とする干渉課題として標準的な放射状迷路課題を入れた。すなわち、遅延挿入課題の前半を終えたラットは、2時間の遅延の途中で標準課題を行い、その後、残りの遅延挿入課題を遂行するよう訓練された。習得後、標準課題の遂行直前にNMDA受容体のアンタゴニストであるAP5を前頭前野に微小投与し、遅延挿入課題の後半の遂行に及ぼす影響を検討したところ、正選択数が減少する傾向が見られた。AP5による前頭前野NMDA受容体の遮断は標準的な放射状迷路課題の遂行を阻害しないことを確認しており、対照実験からAP5の作用は遅延挿入課題の後半までに減弱すると考えられるため、この障害は前頭前野NMDA受容体の賦活が空間的ワーキングメモリーの保持過程において別の空間情報を並列に処理する際に重要である可能性を示唆する。
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