本研究の目的は、韓国、タイ、メキシコが1990年代の金融危機後に取り組んだ金融再建について、ミクロの政策過程を比較分析するものである。 各国での現地調査を行うため、平成20年度はタイに、平成21年度はメキシコと韓国に出張した。いずれの国でも、財務省、中央銀行の現職・元幹部職員、大学教員、日本大使館関係者、邦銀の現地支店の幹部職員などに聞き取りおよび意見交換を実施した。さらに大学、研究所、政府機関で資料収集を行った。 以上の現地調査とその分析の結果、各国では歴史的な遺制や伝統が金融再建の方法に影響を及ぼしたことが明らかになった。 韓国では、政府介入の歴史的な伝統が政府の組織や官僚の思想に根付いていたことから、政権交代後の金大中政権においても、政府は積極的に金融再建を主導して、それが奏効した。 タイでは、政府が市場に介入しない遺制および思想、さらには商業銀行の伝統的な政治的影響力があったため、政府は韓国のように積極的に不良債権処理や資本増強を行わず、民間銀行の自発的な再建を尊重した。 そしてメキシコでは、与党PRI政府は伝統的に市場に介入する政策を採っており、その影響で金融再建も政府主導で行われた。しかし、1982年と1994年に二度の金融危機を経験した政府は、その経済思想を市場主義に転換しており、最終的な金融市場のあり方として外国銀行の参入を認めてしまった。そのため外国銀行が金融市場を支配する結果となった。
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