平成20年度においては二本の論文に精力的に取り組んだ。一つ目の″Implications of General and Specific Productivity Growth in a Matching Model″は、標準的なサーチ・マッチング理論を用いた雇用・労働モデル(Mortensen-Pissaridesモデル)に動学的契約を組み合わせたモデルに生産性成長を導入し、更に、労働者の企業特殊的人的資本が長期の生産性成長率の高い時により多く蓄積されるメカニズムを組み込むことで、通常のモデルでは定量的に説明が困難な、データ上観測される長期の生産性成長率と失業率との間の負の相関が説明可能となることを示すものである。研究代表者は本論文を2008年7月のSociety for Economic Dynamics Annual Meetingや同8月の東京マクロワークショップ等、内外の学会等で発表し、それにより有益なフィードバックを得て論文を進捗させることができた。特に、以前はデータから値を特定することが困難と考えていたパラメータを特定する方法を考え付き、当該方法を用いて日米についてのカリブレーションを行うことができた。このような事情による加筆修正のために、当初予定より論文の完成に時間がかかってはいるが、全体として進捗は順調であり、早期の完成及び海外雑誌への投稿を期している。 二つ目の論文は、上記論文中で提唱しているモデルの一部を簡略化した長期契約モデルを用いて、生産性成長率と不確実性が契約当事者の経済厚生に与える影響について分析している″The Value of Uncertainty under Limited Commitment″である。本論文では、資金貸借契約の一方当事者が契約の履行にコミットできない状況下では、当該当事者の効用は所得が不確実の場合の方が改善される可能性があること、またそうした事態が生じるには、所得が一定以上の速度で成長していることが必要であることを示した。研究代表者は本論文を2008年9月のGRIPS Conference for Growth and Development等、内外の学会やワークショップで発表してきた他、今夏の海外学会でも発表を予定している。そうした場でのフィードバックを元に、平成21年度中に本論文を完成させることを目指している。
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