ホームレスやワーキングプアに象徴される現代日本の貧困問題を前にして、語るべき言葉も為す術も見出しかねている日本社会のあり方を、戦前・戦後日本の「生存権」を歴史社会学的に分析することによって、社会制度の最も深層にある言説構造から捉えていくことを課題とした。政策・制度の変遷や、個々の人物の思想や実践、政治的アクターの力関係の関数としての制度形成を描くよりも、様々な運動、様々なアクター、様々な思想に通底する言説の構造-議論や実践の基盤となる論理や価値規範など-を捉えるという方法によって、政治的対抗や政策論上の対立という表面的な図式の下に深く隠れている戦後日本社会のイデオロギー構造を明らかにすることを目指した。 これまで作業によって、戦前日本における貧困救済の議論及び実践の再検討、そして、敗戦直後における国民の権利論および1950-60年代における労働者の権利論の分析を進めた。これらの分析において、戦前・戦後の日本における救貧をめぐる言説を言語行為としての意味という側面から検討・再検討し、救貧に関わる様々な実践や議論のなかで、「社会」という<全体>がどのように生成し、表象されていったのかを考察してきた。 そして、日本近代における「社会」「国家」「個人」の関係性を捉える枠組みを鍛えるとともに、そこから見えてくる「社会」と「国家」と「個人」との関係性を、戦前から戦後にわたる歴史のなかでの変化と連続性とに着目して分析していくという課題を明らかにした。
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