研究概要 |
本研究の目的は,清水・川邊・海塚(2007)にて作成された「対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル」における基礎的知見の更なる蓄積にある。この対人恐怖と自己愛の関連性を捉えた実証モデルは,直交が想定される対人恐怖心性と自己愛傾向の2軸から構成されており,両下位尺度得点の強弱関係から5類型が抽出されるものである。本研究では,その中でも対人恐怖心性の強さを共通点に持つ「過敏特性優位型」と「誇大-過敏特性両向型」の2類型に着目する。両類型は他類型に比較すると心理的ストレス反応が一貫して高いことが示されているため,一定の精神的健康状態の低さが指摘されている。そのため,日常生活においても様々な制約が存在することが容易に想定される。しかし,実際には不適応状態に陥るまでの詳細な過程の検討は必ずしも十分とは言えず,加えて両類型の差異に関する知見にも不明瞭な点が多く残されている。従って,実証的立場における両類型の中核的特性の明確化には重要な意味が含まれており,さらには臨床的な応用可能性に対する知見の一助となることが期待されるものである。 本年度では,主として一般の大学生を調査協力者とした質問紙調査データおよび研究に関連する様々な文献の収集が行われた。調査データとしては各類型において自尊心を形成する諸要因の検討,攻撃性及びその対処方略の検討,理想自己・現実自己の乖離関係と恥感情・罪悪感情に対する敏感さの検討に関するものについて順次実施されている。また今後は,収集された多く関連文献から得られる総合的な知見を参考にしながら,既に得られた調査データの統計的分析および研究成果の発表を行う予定である。
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