研究概要 |
ワーキングメモリが「どのように」高次認知で重要なのかを明らかにするために,高次認知課題のひとつである心の理論課題の個人差に関わる脳領域を機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)によって検討した.具体的には,重回帰分析によって心の理論課題の成績と活動強度が関連している脳領域を明らかにし,その脳領域が従来心の理論との関連を指摘されてきたワーキングメモリの中央実行系(実行系機能)を支える神経基盤と重複しているかどうかを検討した.重回帰分析の結果,左側の前部上側頭溝(anterior superior temporal sulcus; anterior STS)の活動強度が心の理論課題の成績と関連を示したことから,左側のanterior STSが心の理論の個人差と関連している可能性が示された.一方で,ワーキングメモリの中央実行系(実行系機能)を支えることが知られている内側前頭前野(medial prefrontal cortex; mPFC)の活動強度は心の理論課題の成績との関連性を示さなかったことから,心の理論の個人差にワーキングメモリの中央実行系(実行系機能)が関与している可能性は低いことが明らかになった.以上の結果は,高次認知のなかでも心の理論はワーキングメモリの中央実行系(実行系機能)が個人差に関与していない珍しい認知過程であるという,ヒトの高次認知メカニズムを解明するうえで重要な手掛かりをもたらした.
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