研究概要 |
ICD-10およびDSM-IVにおける自閉症基準において、中核となる3つの症状、対人的相互反応における質的な障害、コミュニケーションの質的な障害、および限定・反復的・常同的行動や興味があげられる。欧米におけるこうした症状の正確な診断には、ADI-RやADOSが用いられる。本研究では、米国において開発された対人関係構築に焦点を当てたプログラムRDI^[○!R](Relationship Development Intervention)の理論的背景に関する文献検討を行うこと、そしてADI-R(養育者から子どもの症状を聞き取る形式)とADOS(専門職による子どもの行動観察)における評価に違いが生じた場合に、それが養育者の特性とどのような関連にあるかを検討した。 最初に、RDI^[○!R]に関する文献検討を行った結果、本プログラムが自閉症における中核となる問題にアプローチするために有効な手法を用いていることが整理された。すなわち、対人関係に重要であり本質的な基盤となる、定型発達児が生後すぐより開始し育み始める社会的なやりとりの手段の一つである視線や表情、さらに指さし等の非言語的なコミュニケーション手段について、再度育み治すということを重視している。そして養育者が子どもの最も良き指導者であるという視点から介入技法をプログラムとしてまとめたものがRDI^[○!R]であり、その有効性に関する研究も行われている(Gutstein, Burgess&Montfort,2007)。 次に、ADI-RとADOSにおける評価の違いと養育者との特性について検討した。阪大病院「親と子の発達相談」事業においてADI-RとADOSの両方を実施した家族18名を分析対象とした。ADI-RとADOSの各下位領域のうち、コミュニケーションおよび社会的相互関係に関する項目を比較検討した結果、9名においてADI-RとADOSに関する内容に違いがみられた。そのうち、ADOSにおける結果がADI-Rより重篤であったのが2ケース(自閉症特性過小認識群)、ADI-Rにおける結果がADOSより重篤であったのが7ケース(自閉症特性過剰認識群)あった。これらの2群について養育者の特性(エゴグラムやKGPSI等)に関する量的分析を試みたが、被検者数が少なかったことから有意な違いは見られなかった。次に対象児の長所や困難点等に関する自由記載の分析を行った。その結果、自閉症特性過剰認識群については、将来に対する不安に関する記述が多いこと、この傾向のある養育者は配偶者の非協力を感じている点が明らかとなった。また対人関係の相互性よりも、非言語的あるいは想像性が求められるコミュニケーションについて、問題ととらえている傾向が見られることが明らかとなった。今後、データを蓄積していくことで、より明確な傾向を抽出する必要がある。
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