本研究は、経営と労働の歴史研究を構築し、近代の労働観を超克する新しい働き方を模索するという構想の下、戦後日本の労働市場に関して再検討を行う。当該分野には極めて重厚な研究蓄積があり、同時代的な調査も多く実施されている。本研究はそれらを歴史的な史料として分析することによって、新たな歴史像を描こうとするものである。その独創性は、従来の労働研究に経営の規制という問題を導入する点にある。すなわち、経営と労働の歴史研究という観点から、戦後日本の労働市場の形成過程に関して実証的な再検討を行うことで、外部労働市場の展開と内部労働市場論との接合を試みた。 平成21年度は、労働市場の歴史的な構造を把握したうえで、それが企業の雇用戦略にいかなる影響を及ぼしたのかを追求し、高度成長期に進展した労働市場の内部化について検討を進めた。その際、大企業の男子労働者のみに焦点をあてるのではなく、中小企業や女性労働者の果たした役割に注目するのが本研究の特徴である。近年の研究は企業による雇用戦略の合理性を強調する傾向にあるが、本研究は、企業の「合理的」な経営戦略が、「完全雇用政策」という国家の雇用政策に裏付けられた労働市場の構造を前提とする限定的なものに過ぎなかったこと、しかしながら、そうした企業の雇用戦略が、今度は国家の雇用政策の根本理念を変容させる契機となり、日本企業の内部労働市場のあり方をより強固なものとした点を明らかにした。
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