本研究では、植民地期における朝鮮民衆の学習・教育活動と地域社会の実相を明らかにすることを目的とした。その際注目すべき点は、植民地期朝鮮を「支配と抵抗」という2項対立的な図式で捉えるのではく、朝鮮農民の学習・教育活動と地域社会の実相を「支配と自立の混在領域」及び「同化と抵抗の混在領域」としてみることであった。研究の結果、地方行政団体による「公共事業」によって朝鮮の集落と朝鮮総督府が密接な関係になっていった点を明らかにした。一方、朝鮮農民の自立と生活向上を目指した朝鮮農民団体である「朝鮮農民社」の活動においては、農民たちの識字教育を目的とした『農民読本』の発行にみられるように、朝鮮農民に対し「自立」「自由」「平等」などをキーワードにしながら朝鮮総督府の支配体制に対し、批判的な立場をとりつつも、次第に朝鮮農民の生活向上のため農業技術の向上に重点がシフトし、結果として朝鮮総督府の支配を支援する結果となったことを明らかにした。
|