研究概要 |
本研究の目的はイノベーションの収益化に影響を及ぼす非技術的要因(競合主体間の競争力学とデザイン訴求力)を探究することである.この目的のために平成20年度では,有機ELディスプレイの事業化をめぐる「競合主体間の競争力学」にフォーカスし,既存文献のレビュー,関連資料の収集・分析,および関係者へのインタビューを行った.これらの調査・分析を通して次のような発見的事実と結論に至った.(1)競合主体間の競争の多元化によって,新技術に対する認識や開発のアプローチが錯綜し,新技術の技術的アーキテクチャーの転換可能性が高くなった.(2)既存市場における競争優位の早期奪回と既存企業からの競争的圧力によって,追随者(既存市場の競争劣位企業)は資源蓄積の多重利用に基づく競争的行動の展開が強いられた.これが新技術のコスト・パフォーマンスの向上に寄与したものの,逆に新技術が既存市場の競争優位企業の競争的土壌に吸い込まれ,ロックインされるようになった.そして(3)結果的に異なる性格をもつ競合主体間に繰り広げる競争の多元化によって,競争主体間の競争力学が変化し,新技術の研究開発そのものがある一定の成果を成し遂げたにもかかわらず,イノベーションの収益化には結びつくことができなかったということである.さらに本研究では,上記の結果から競合主体間の「直接的相互性」のみならず,その「構造的包括性」も視野に入れる新しい競争分析モデル-三項対立的分析-を抽出した.ここでいう三項とは,イノベータ,既存市場の競争優位企業,既存市場の競争劣位企業の三者である.現段階において,このモデルは特殊事例に限られたものであるが,時々刻々に変化し競合主体の参入と退出が常に繰り替えている競争市場の実態に鑑みれば,今後この新しい競争分析モデルの必要性が高まると考える.
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