研究概要 |
本研究の目的は,イノベーションの収益化を左右する非技術的要因の考察を通して,技術のポテンシャルを活がした収益化の実現を目指す方策の導出である.本年度は,主にデザイシをキーワードに研究を進めた.イノベーションとデザインとの関係性の究明について,経営学におけるデザイン関連の文献や資料を収集し,その全貌の把握から始めた.サーベイの結果,主に以下の点が明らかになった.(1)これまでの研究は主に,機能設計が中心となるエンジニアリングデザイン,マーケティング効果に注目するインダストリアルデザイン,人間工学や人工知能などを応用したサイエンスデザイン,デザインのもつ社会的役割を強調するソーシャルデザインという4つに類型化できる.(2)デザイン研究が直面するハードルの一つは,デザインのもつ意味的多義性による解釈の柔軟性にあった.但し,いずれのケースにおいても,デザインは総じてある人工物を期待通りのイメージ,機能,パフォーマンスに仕上げることが共通の認識であった.(3)経営学では,主に活動としてデザインをえ組デザインや品発のプロセス・デザインに偏っていた.デザイナーが機能的調整と感情的価値の両方を重視するデザイン思考によるイノベーション効果について,十分に解明されていなかった.次に,ディスプレイ,電子書籍,MP3における日本企業と海外企業間の比較検討を行い,日本企業におけるイノベーション収益化の低迷は,決して技術の面で劣っていたわけではなかったことが明らかになった.むしろ製品のインターフェスデザインやビジネスシステムのデザインが劣っていたことがわかった.最後に,これまでの研究を踏まえ,技術はイノベーションの収益化を決める唯一の基準ではない.技術のポテンシャルを活かしたイノベーシヨン収益ヒを実現するために,技術に偏った視点ではなく,デザイン思考や競争のような非技術的要因への理解を深め,それらを補完的に取り入れることが重要であるという知見が得られた.
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