人間行動の個人差を説明する要因としては、個々人の置かれた状況や選好の違いがまず考えられるが、主観的認識の違いも無視できない。特に不確実性のある状況では、主観確率(主観的なリスク認識)の違いによって行動に大きな違いが生じうる。本研究では、主観確率が健康行動にどのような影響を及ぼすか、主観確率はどのようにして形成されるか、の二点を実証的に検証している。 研究計画の立案時点では、健康行動として喫煙や飲酒を対象とすることを考えていたが、その後これらの行動を分析するには統計分析上の問題があることがわかった。喫煙や飲酒によって健康被害が生じるには時間がかかるため、リスク認識だけではなく危険回避度や時間選好率についても考慮しなければならない。個人の危険回避度や時間選好率を測る従来の手法の重大な問題点が明らかになっているが、それに代わる手法はまだ確立されていない。そのため本研究では、リスクを伴う行動とその結果が生じるまでの期間が比較的短い、避妊と性感染症予防について分析することにした。 18歳から30歳までの避妊を行っている女性を主な対象にインターネット調査を行い、2000件を上回る回答を得た。どの避妊法を選択しているか、また、それぞれの避妊法のリスクとベネフィットに対してどのような認識を持っているか、詳しく質問した。また、リスク認識の違いがどのような要因で生じるか分析するために、学歴や妊娠の経験等についても質問した。 主観確率は、健康行動に限らず様々な人間行動に重要な影響をもたらしていると考えられるが、主観確率についての研究はまだ非常に少ない。特に日本人を対象にした研究はほぼ皆無のため、本研究は欧米人を対象とした先行研究との比較という意味からも重要である。また、避妊行動の分析は、出産や中絶、性感染症の伝染について理解を深めるためにも必要である。
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