1. 問題の所在:契約において両当事者の責めに帰すべき事由により債務者の履行不能が発生する場合が考えられる。そのような場合に、とりわけ債権者にも履行不能に帰責事由があるということが、債権者の損害賠償請求権および解除権、ならびに、債務者の反対給付請求権にいかなる影響を及ぼすのかが問題となる。 2. 検討結果:本研究では、上記の問題を考察するにあたり、ドイツ法を検討した。 (1) 債権者の損害賠償請求権が債権者の責任割合で縮減されることに争いはない。 (2) 債務者の反対給付請求権については、存続説と消滅説とに分かれ、存続説は、債務者の責任割合の分だけ縮減することを肯定する説と否定する説とに分かれる。消滅説は反対給付請求権に代わる損害賠償請求権を債務者に認め、この請求権を縮減する。ここでは、反対給付(またはそれに相当する損害賠償)が縮減されるべきかが問題となる。決定的な対立点は、債務者に有利な取引が行われた場合に、その有利な利益分が失われたことによる損失をだれが負担すべきかである。縮減肯定説は、この損失を各当事者がその責任割合に応じて負担すべきとする。これに対して、縮減否定説は、当初の契約で約束された契約利益分すべてが債務者に有利に与えられなければならないとする。 (3) 債権者の解除権との関係では、上記の法律構成のうち、反対給付の存続説と消滅説との対立が決定的に重要である。消滅説では、反対給付義務に代わる損害賠償義務が解除の影響を受けないため、解除によって複雑な問題は生じない。これに対して、存続説では、解除を認めると、債権者の損害賠償請求権と反対給付請求権による利益調整が水泡に帰してしまう。そこで、存続説は、債権者にはるかに圧倒的な帰責事由がある場合に解除権を排除するというドイツ民法典の明文の規律内容を超えて、より広範に債権者の解除権を制限する解釈論を展開している。
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