特別支援教育では“個々のニーズに応じた支援"がしばしば強調される。それ自体は望ましいことであるが、個々のニーズ保障に傾きすぎると、別の問題が派生することになる。すなわち現状の40人学級では、配慮が必要な児童生徒が多いと、大きなコストがかりすぎて、結果的に効果が上がりにくくなるのである。そこで、学級経営を通した安定的で促進的な集団づくり、つまり“構造づくり"の視点が必要になる。AD/HD児や自閉性障害児にみられる共通の課題は集団適応である。特に問題行動や対人関係上の軋轢は、集団が不安定であるほど顕在化しやすい。そこで、個別の支援を充実させつつ、彼らを支援するような安定的な学級集団を形成していく戦略が必要になります。それを図示したのがIG理論である。現段階で通常学級で認知行動療法を取り入れつつ、このIG理論の検証を行っている。 (事例研究) 特別支援教育でCBTを応用した事例を検証し、各学校で研修に役立てている。その際、対象児の情緒と行動の問題をCBCL-TRFで評価した。事例の1ケースの対象児は9歳の男児。選択性絨黙及び学習障害を有していた。対象児の認知・行動特性として、(1)自罰的認知、(2)原因帰属の歪み、(3)恣意的で極端な行動様式が挙げられた。約2年後のCBCL-TRFの結果、いくつかの下位尺度で改善が認められた。“不安抑うつ"及び“社会性の問題"では大幅な改善が認められた一方で、“ひきこもり"“思考の問題"では臨床域のままであった。本事例ではCBTの技法を4つの構造に分けて適用した。通常学級におけるCBT適用の有効性や、タイミングについて考察した。現段階では、認知行動療法を応用した技法は、学校教育に展開しやすく、効果もあると判断している。 M-CBTプロジェクト(通常学級における多面的認知行動療法プロジェクト)について 申請者が所属する奈良教育大学特別支援教育研究センターでは、保護者からの教育相談と並行し、学校からの教育相談も受け付けている。また、可能な限り保護者と先生と一緒に面接をしながらよりよい支援策を考えており、現在も研究中である。
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