本年度の研究は、研究計画に従い、近年の米国における教育労働法制改革の動向に関する分析を、ミシガン州における「公務員雇用関係法(Public Employment Relations Act;以下、PERA)」を中心的な素材としてとしておこなった。 公務員法制による身分保障の適用がないアメリカの公立学校教員において、各州に制定された公務員を対象とする労働法は、実質的に公立学校教員の身分保障法としての機能を果たしてきた。本研究が対象としたミシガン州においても、1965年にPERAが制定されて以来、公立学校教員は、団結権、団体交渉権そして一部の団体行動権を保障されると同時に、広範な解釈が可能な交渉範囲の定義のもとで、教育政策決定過程への進出をも果してきた。一方、1994年のPA112による全面改正により、PERAは公立学校教員を一般の公務員とともに包摂しながら、そこで保障される権利について、教員のみに制限を与えるという法的特色をもつものとなる。本研究では、このような区分がなされた背景に、教員団体が公共の利益に反する「労働組合」であるという認識が存在していたことを明らかにしている。 これまで、アメリカの教員研究においては、教員の資質向上施策に注目が集められてきたため、教師の身分保障や労働条件を支える法制度の問題は十分な検討がなされてこなかった。本研究においては、米国の公立学校教員の労働法制とその改革問題を明らかにし、学校教員の専門職性を支える労働条件の保障は、一般労働法の機械的な適用によってではなく、民間労働者とも一般公務員とも異なる教員に固有な法制度を要することを提起している。
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