身振り表現(gesture)は、幼児期に、言語能力をはじめとする認知能力とともに、様々な発達的変化を遂げることが指摘されている。本研究は、身振り表現の発達的変化の詳細(例:身振りの視点や形態)と、言語能力・空間構成能力などの発達がこれらの身振り表現の変化とどのように関連するのかを明らかにすることを目的としている。本年度は昨年度に引き続き、主に(1) 身振り表現と言語能力の関連性の検討(データ及び言語関連指標の追加)、(2) 昨年度の4歳児の1年後の追跡実験を行った。方法:就学前児(3~5歳児)を対象に、個別面接で、身振り課題(道具を使用するふり:歯ブラシ・のこぎりなどのイラストを提示して「これ知ってる?」「使うマネできるかな?」)及び言語課題(絵画語い発達検査:4種類の絵の中から指さしで選択)を行い、昨年度と併せた約180名について身振り課題の形態の変化(手での代用表現を用いるかどうか)と言語能力の関係を検討した。さらに、今年度追加した年長児については、言語流ちょう性検査による検討及び身振り課題の追加を行った。結果:道具の使用に関する身振り表現は、年齢があがるにつれ、手での代用表現の割合が減少し、手の中に道具のための空間を保持した表現の割合が増加していた。しかし、このような身振り表現の変化と、言語能力との明確な関連は見出されなかった。また、1年後の追跡による4歳児と5歳児の比較では、全体的な傾向は横断研究の結果と同様であるものの、これらの代用表現の減少が一様ではなく、この時期の変化が流動的であることが示された。今後は、個人内でのより詳細な比較検討が必要であると考えられる。
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