近年の途上国における経済危機の特徴は、経済が不況に陥る際、銀行危機と全要素生産性(TFP)の急落を伴う点である。本研究の目的は、景気変動における金融機関の役割について理論的考察を行い、途上国の経済危機 における突然の海外からの資金流入の停止という国際金融摩擦のTFPの変動を通じた経済への影響を定量的に分析することである。また、金融部門を明示的に仮定することによって、国際金融摩擦が経済に伝播する過程で、その影響を弱めるためにどのような政策が有効であるかを検証することにつながるため、政策的観点から見ても意義深い研究であると考えられる。 本年度は、Otsu (2007)の、途上国における経済危機の際にTFPの下落が重要な役割を果たすという結論をもとに、本来ならば生産に当たるべき労働が、突然の資金流入の停止という金融問題の解決のために使われるという仮定の下、国際金融摩擦が生産性の下落をもたらす関係を示す確率動学一般均衡モデルを構築した。本研究の前身であるOtsu (2007)を下記の学会やカナダ中央銀行における勉強会等で発表した際に、今後の課題として議論し、多方面から意見を得ることができた。今後は、本年度構築したモデルをもとに、アジアやラテンアメリカなどの途上国経済危機データを用いてモデルを数値化し、シミュレーションによって国際金融摩擦がTFPを通じて生産に与える影響を定量的に分析し、経済危機に陥った途上国において、いかに国際金融摩擦が重要だったかということを明らかにする。
|