近年の途上国における経済危機の特徴は、経済が不況に陥る際、銀行危機と全要素生産性(TFP)の急落を伴う点である。TFPを外生変数として定義し、その景気循環に対する影響を分析するRBCモデルは、TFP変動の具体的な正体に関する説明がないという批判にさらされてきた。本研究の目的は、景気変動における金融機関の役割について理論的考察を行い、途上国の経済危機における突然の海外からの資金流入の停止という国際金融摩擦のTFPの変動を通じた経済への影響を定量的に分析することである。 本研究が特に独創的な点は、最先端の定量的分析手法である景気循環会計を用いた途上国経済危機の分析をもとに、国際金融摩擦が途上国不況の原因であるならば、それはTFPの下落を通じて経済に影響を与えなくてはならないという視点に立っている点である。本研究のモデルでは、途上国企業は生産要素の購入を海外からの借り入れでまかなっている。突然の資金流入の停止によって、企業は新たな融資先を探す必要がある。ここで、資金流入の停止は、金融仲介における信頼という組織資本の喪失によって起きたととらえることができる。また、新たな融資先を探す作業は、組織資本の再構築のために投入される、生産に直結しない労働と解釈することができる。定量分析の結果、この生産活動に直結しない労働投入が生産性の低下の要因の一つとして考えられることがわかった。
|