2009年度は、前年度にハンガリーから持ち帰った資料を元に、ハンガリー所領の個別経営分析を行ない、途中1度の学会発表をはさみながら、これまでの研究成果を3本の論文に取りまとめた。具体的には主にピアリスト修道会メルニェ所領、カロチャ大司教領、カーロイ伯爵家ホードメズーヴァーシャールヘイ所領、ヴェンクハイム伯爵家アカストー=ヴェーストゥー所領、パラヴィツィーニ侯爵家ミンゼント=アルジュー所領の成立と展開について、主に現地の先行研究に依りながら立ち入って検討した。得られた成果の骨子は、以下の通りである。(1)大貴族や教会勢力は、近代ハンガリーの政治、経済、社会において重要な地位を占めていた。農村住民の多くは全国に展開する彼らの所領に依拠して生計を立てていたし、所領オーナーは議会に議席を占めたほか、知事、閣僚や首相としても政治を動かし、また大銀行、鉄道や製造業等の大企業の重役会にも名を連ねていた。(2)そのなかで、小麦生産が最も周密に分布する地域であったハンガリー大平原の所領は、多くがオスマン帝国のハンガリー撤退後の18世紀から19世紀初頭にかけて成立し、19世紀を通じて所領オーナーたちの手により整備、拡充されていった。しかし、先行研究の多くは土地制度史的研究であり、個別具体的な企業者活動や、その帰結としての各種生産高の動向といった所領経営の中味に立ち入って分析したものはほとんどないことが分かった。本年度の研究成果では各所領とそれらのオーナー一族の活動を概観するに止まり、一次史料に基づいて所領の発展メカニズムを立体的に再構成することは、今後の研究課題として残された。
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