<具体的内容> 本年度は、製薬企業におけるイノベーションの初期プロセスに関する研究テーマ“新薬候補の市場規模の予測はなぜしばしば大きく外れるのか?"の解析に注力した。具体的には、新薬の市場規模規模が大きく外れた1)腎性貧血治療薬“エリスロポイエチン製剤"、2)高脂血症治療薬“スタチン"、3)夢の新薬と呼ばれた“インターフェロン製剤"の開発事例に注目し、それぞれの事例を調査/分析し、開発時に新薬候補の市場規模予測が大きく外れた原因を探った。調査は新聞記事・書籍等から二次情報を収集すると共に、当時の関係者に直接インタビューを実施して一時情報を収集した。そして、収集した情報を踏まえて論理的な可能な原因を仮説的に導いた。さらに、それらを基に思考実験を繰り返し、事例間で抽象化が可能な原因を探った。 その結果、新薬の市場規模予測がしばしば大きく外れる要因には、1)開発現場が既存薬の市場規模や市場ニーズを精緻に分析した結果を重視する傾向、2)新薬が人体に対して想定外の影響を及ぼすこと、3)新薬の市場をとりまく外部環境が想定外に変化することがあり、そしてその背後には、1)開発現場における論理、2)新薬が人体に及ぼす影響についての情報に対してのヒトの知識レベルの乖離、3)外部環境変化に対してのヒトの知識レベルの乖離がそれぞれ関与する可能性があることを仮説的に提示した。 <意義及び重要性> 医薬品産業において、新薬の市場規模予測は新薬開発に対する投資判断の際に重要な指標となるが、その予測が大きく外れる原因は明確にされていない。本年度の研究で提示した仮説は本問題の原因を追究する上でこれまでにない新しい視点を提供するものであると考えられる。
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