まず、高齢者の地域間移動と地域の福祉要因について分析の拡張を行った。全国規模にデータを拡張し、さらに民間の有料老人ホーム等の変数を加えた。結果として、営利、非営利いずれの介護施設も高齢者の移動誘因となる事が明らかとなった。また、医療サービス料も同様に高齢者の移動誘因となっている。この研究成果は、高齢化が進展するわが国における初の実証的な研究であり、研究上の意義のみならず政策面での意義も大きい。本研究の成果は、中澤・川瀬(2011・掲載決定)やKawase and Nakazawa (2009)など、国内外の査読誌に掲載される。 また、この研究から派生し、介護関連の営利、非営利事業者の行動、移動の結果として地域の要介護状態の変化、地方政府の意思決定などを実証的に分析し、学会報告等を行っている。具体的には「地域介護市場への参入行動」、「介護保険料設定に関する自治体間の相互性」、「老人福祉費の決定における自治体間の相互性」、「市町村合併と介護」、「家庭内扶養機能の変化と公的福祉への依存度の計測」などの研究を行った。これら研究成果の一部はすでに論文や著書として公表されており、また一部は現在査読誌への投稿を行っている。 これら一連の研究を総合する事で、高齢者福祉サービスのあり方について考察するための基礎的情報を提供できていると考えている。特に、施設と居宅サービスの差異が明らかになりつつある介護保険の供給面や、現行の保険者単位での運営の持続可能性や財政調整のあり方が議論される財政面の議論に貢献できるだろう。
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