1年半の研究の取りまとめを行うべき今年度の成果は、学術的な貢献はあったものの、研究代表者にとってはやや物足りない内容であった。 学術的には、中国政治外交の転換点となった1978年の日中関係について重点的な聞き取り調査を行い、中国側とビジネス交渉を行っていた日本側経済人の具体的証言と中国当局編纂の歴史資料とを照らし合わせ、当時の国際的政治経済状況が〓小平ら中国指導部の政策決定に相当影響を与えていたことを明らかにした。この結果は、改革開放が〓小平の英明な判断であり、華国鋒は「洋躍進」の過ちを犯したとする先行研究の常識を大きく覆すものとなった。研究代表者にとって、この作業はオーラル・ヒストリーの収集と活用の実戦的な経験となった。そのほかにも、日本での資料収集や聞き取りは全体的に順調で、1980年代を中心とする日中経済協会の主な文字資料はほぼ収集し終わり、また中国研究所に蓄積されていた日本側経済人の聞き取りテープも数多く入手・複製できた。 以上のような成果はあったが、研究がうまくはかどらなかった部分もあった。中国側での聞き取り調査のハードルが高く、主な役職に就いていた方がすでに亡くなっていることがわかり、アクセスできた人々も政治的に敏感な話題に触れるのを怖がった。これについては、将来可能性があるとすれば、別プロジェクトを立ち上げて中国国内の研究協力者に委ねるほかない。また1978年についての分析に時間を費やしたため、資料等はほぼ収集し終えたものの、1980年代についての分析を英文で発表することができなかった。また国内/国際要因のリンケージに関する方法論を検討する予定であったが、これについても十分な成果を上げることができず、今後の研究遂行の反省点となった。
|