本研究は、ソーシャルワーク学の立場から(1)子が「出自を知る権利」の根拠、(2)DI者を取り巻く社会構造と改善すべき社会システム、(3)DI者支援の視点とアプローチの方法を探求していくことにより、非配偶者間生殖補助医療で生まれた子の福祉が成立するための本質を明らかにすることを目的とする。当該研究を実施する前提として、DI者がAID並びにそれに関連する社会構造が「社会的虐待」と呼べる構図下におかれているという示唆をこれまでに得てきた。 本年度の研究では、(1)人工生殖の歴史と「出自を知る権利」に関する文献調査、(2)DI者及びそのグループへのインタビュー調査、(3)「第三者性」を有する者へのアンケート調査を実施した。(1)においては、国連子どもの権利条約にいう「出自を知る権利」が、DI者の「出自を知る権利」を包含するか否かの確証を得るには至っておらず、引き続きの調査が必要であると考える。(2)においてはDI者一人ひとりがおかれた家庭並びに社会環境により、DI者一人ひとりが個性的で固有のAID並びにDI者像を描く側面と共通する側面とがあることが示唆された。(3)においては、DI者の声を記録化した場合、どのような立場からその記録を考察しても、DI者の声が向かう方向を、同一の構図として理解することができることが示唆された。 これらの結果から、DI者の福祉が成立するためには、DI者の声を質的に分析した場合、あるいはDI者の声を指標化したビネット調査の結果を解釈した場合においても、DI者の意思を尊重するというサポートが欠かせない構成要素であることが示唆された。
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