平成20年度の研究成果は、国際的に権威ある査読つき英文雑誌であるEconomics Lettersに掲載予定の論文において公表される運びである。この論文では、本研究プロジェクトのテーマである知的財産権保護と企業の自発的なコピー防止活動(DVD、コンピューター・ソフトウェア等が好例)の役割を、知的財産権保護とイノベーションに関する南北内生的成長モデルにおいて詳細に分析した。そこでは、WTO(ウルグアイ・ラウンド)におけるTRIPs合意のような、発展途上国に対して知的財産権保護の強化を義務付ける政策が、先進国のイノベーション水準に対して与える効果は単調ではないことが示された。すなわち、途上国知的財産権保護の水準と、先進国のイノベーション水準の間に逆U字の関係があり、過度に強い知的財産権保護の強化を発展途上国に強制することは、不十分な知的財産権保護の水準を持続することと同様に、先進国のイノベーション水準を低下させることがわかった。 この研究成果は既存研究と比してまったく新しいものであり、その重要性は疑う余地がないものと考える。既存研究においては、知的財産権保護がイノベーションを促進するかしないかという二元論的な結論が導かれていた。それに対して、本研究の結果は、「適度な保護水準がイノベーションを促進する」という既存研究とは異なるより柔軟な政策的含意をもつ点において、まったく新しいものである。 また、この研究成果の周知のため、いくつかの学会・セミナーにおいて、研究報告を行った。
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