研究概要 |
平成21年度の主な研究成果は、"Private Incentive and Public Protection for Intellectual Property Rights"としてまとめられた(中京大学経済研究所ディスカッションペーパー0904)。この研究は平成20年度の成果(Akiyama and Furukawa, 2009, Economics Letters)を発展させたものである。知的財産権保護が不完全な場合、企業が発明したイノベーションを自発的に保護する私的誘因を持つことがある(e.g.,DVD、ソフトウェア、プリンターカートリッジ)。本研究計画の目的は、この私的誘因の役割を分析することである。前述の論文において、このような知的財産保護の私的誘因が強すぎるとき、経済全体のイノベーション率および経済成長はかえって低い水準になる可能性が指摘された。簡潔に言えば、無駄な資源が模倣防止のための投資に浪費されるためである(e.g.,IT産業がオーソライズ機能の開発に過剰な投資を行う)。また、WTO(ウルグアイ・ラウンド)におけるTRIPs合意のような、発展途上国に対して知的財産権保護の強化を義務付ける政策の効果についても分析が行われた。途上国における知的財産権保護の水準と先進国のイノベーション水準の間には逆U字の関係があることが示された。この結果は、過度に強い知的財産権保護の強化を発展途上国に強制することは、不十分な知的財産権保護の水準を持続することと同様に、先進国のイノベーション水準を低下させる可能性を示唆している。 この研究成果は既存研究と比してまったく新しいものである。既存の分析は法律による知的財産権保護の役割の解明に集中しているが、本研究は企業自身による私的保護活動という新しい論点を導入し、そのイノベーション水準や経済成長における役割を明らかにした。私的な知的財産権保護活動は多くの近代的産業において観察される現象であり、その重要性は疑う余地がないと考える。
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