平成21年度は、主に以下の3つの研究分析を行なった。 (1)聴覚障害児童の学力に関する計量分析 「全国難聴児を持つ親の会」の協力の下、聴覚障害児童(小5~高3)の保護者400名弱を対象にしたアンケート調査を実施した(回収率40%)。質問紙調査によって得られた聴覚障害児童の学力・家庭・教育状況に関するデータを集計し、現在そのデータを分析している段階である。本調査の計量分析によって、(1)聴覚障害児童の学力に関与する諸要因や、(2)どんな児童にどのような教育が有効であるのか、といった二点の解明が期待される。 (2)ろう学校の質的調査 ろう学校教員を対象にした聞き取り調査を行ない、(1)ろう者教員の一部に見られる聴者教員への不信・不満感、(2)転入生の不適応行動に対する聴者・ろう者教員の意識差、(3)三年で配置替えとなってしまう現行制度への不満などのエピソードが明らかになった。本調査によって現在の聴覚障害教育制度が抱える諸課題が示唆された。 (3)手話通訳事業に関する調査 金沢市、京都市、中野区の三つの自治体で手話通訳事業の調査を行ない、手話通訳養成事業における諸課題((1)講座時間数等の地域間格差、(2)手話サークルへの強い依存、(3)手話通訳者育成の困難さ)や手話通訳の利用状況・問題点((1)平均利用件数の地域間格差、(2)特定項目・特定人物における手話通訳利用の集中、(3)手話奉仕員・通訳者の硬直性と人材不足など)を明らかにした。これらの点を踏まえた上で、ろう者の情報保障手段として手話通訳制度が機能するための諸施策((1)手話通訳の専門職化と職の細分化、(2)大学や職場における手話通訳の公的な保障、(3)手話通訳の客観的評価の充実等)を考察・検討した。 この他、聴覚障害者の生活支援に関連する研究として、(1)音声認識を用いた字幕化支援の研究や(2)障害者雇用に関する経済学的分析の文献調査を行なった。
|