一国の金融市場の発達は経済成長や景気循環を理解するのに大変重要であるということが、多くの研究者によって強調されてきた。金融市場の発達が経済成長にプラスの効果を及ぼすということは、実証的にも理論的にもこれまで明らかにされてきた。しかしながら、金融市場の発達と景気循環の関係は、幾つかの研究が存在するものの、現在のところ明らかになっていない。 本研究の目的は、一国の金融市場の発達と景気循環との関係を、動学的一般均衡モデルを用いて明らかにし、得られた命題を、パネルデータを用いて実証することにあった。二年計画の前半にあたる本年度は、理論モデルを構築し、以下のような、結果を得た。すなわち、一国において、金融市場が発達しておらず、経済主体が厳しい借り入れ制約に直面しているとすると、内生的な景気変動は起こらず、経済は安定化する。そして、徐々に金融市場が発展し、借り手と貸し手の情報の非対称性が解消され始めると、経済は内生的な景気変動を示すようになり、経済は不安定化する。しかし、金融市場がさらに発展し、資本市場が完全な状態に近づくと、経済は内生的景気変動を示さないようになり、再び安定する。 今年度得られた結果は、テスト可能であり、次年度は実証分析へと進んでゆく。また、本年度構築した理論モデルは、一国の不平等と金融市場の発達の関係を分析するのにも拡張可能であるということが判明した。世界経済のグローバル化のもとでの一国の不平等と金融市場の発達の関係は、現在のところ未解決な問題である。拡張された理論モデルの結果として、経済が世界の金融市場に対して閉鎖的である場合、金融市場の発達によって一国内の不平等は緩和されるが、開放的である場合、悪化するということが得られた。アメリカのデータを用いてカリブレーションした結果、理論モデルはアメリカの不平等をよく捉えていることが分かった。
|