本研究は、1990年代以降のロシアの社会変動と意識・階層の変化について、これまで実施されてきた調査を、包括的に捉える試みであった。ロシアで社会調査が開始されて約20年、共産党一党独裁の崩壊や、社会主義経済から資本主義経済への移行、貧困国から資源大国への変貌など、歴史的に見ても大きな社会変動を経験してきたが、研究者各々の関心にまかせてロシアで収集されてきた社会調査のデータを総合的に振り返ったり、新たな視点で再分析したりすることが必要な時期にさしかかっている。 そこで、報告者は、第1に、過去に自身が実施した2000年、2004年ウラジオストク調査(ロシア・極東国立総合大学で実施。内容は主に職業威信調査・働くことに関する意識調査)の結果を振り返り、総括するための論文を執筆した。報告者の調査は2000年当時実施されていなかった内容であり、さらに社会変動を捉えるために活用できるデータであると考え、2010年3月に第3回調査を実施した。今後、これらのデータをもとに10年間の社会構造の変化を見出すための分析を継続して行う予定である。 第2には、既存の社会調査の整理・再分析の一環として、東欧・ソ連の体制転換期にあたる1992-93年と96年にアメリカの社会学者M.Kohnらがポーランド・ウクライナで実施した「職業とパーソナリティ」大規模社会調査の再分析を行った。M.Kohnらは社会学理論の構築という見地で分析を行っているが、これまで地域研究という観点でデータが利用されることはなかった。短期間の変化とはいえ、マクロなデータからは見えない個人の職業移動の方向性や言語使用の変化など、地域研究者として興味深い結果が含まれていた。既存調査にな必ずしも報告者自身が知りたい調査項目ばかりが含まれているとは限らないが、無用な調査を防いだり、過去のデータを活用したりするためには重要な作業であった。
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