本研究は、豊かで安全な消費活動の実践における企業の役割および企業とステークホルダーとのコミュニケーションにおける経営課題について考察するものである。 高度情報化社会の下での消費者の発言力の増大や、消費者の自律性の育成を目的とした消費者教育への注目など、消費者をとりまく環境は大きく変化しつつある。企業倫理論および企業社会責任論においては、企業権力の増大とそれに伴う責任範囲・対応領域の拡大の必要性が主張されてきた。この主張の下では、企業と消費者のコミュニケーションを図る上で、企業側からの働きかけがとりわけ重要であるという見解が導かれる。しかしながら、豊かで安全な消費活動のための一手段として両者のコミュニケーションを捉えるならば、それは企業からの働きかけという一方向的な視点ではなく、消費者の主体性やコミュニケーション上の困難性等、両者のコミュニケーションを促進もしくは阻害する社会的要因についても注目されるべきであろう。 本研究においては、対消費者を中心とする企業のステークホルダー・コミュニケーションを困難にせしめている要素の一つとして、ステークホルダーの多義性があることを主張する。既存のステークホルダー理論においてもステークホルダーの類型化はなされており、それらにおいては主にステークホルダーの持つ利害関係の性質から類型化されてきた。本研究では、企業がコミュニケーションの客体と方法をより明確な形でターゲット化するために、以下の観点からの類型化およびそれらに基づく具体的な施策が必要であると考える。すなわち、ステークホルダーの判断力、情報に対する感度および解釈の仕方といった能力・行動の相違、購入者や使用者といった属性の相違等、ステークホルダー自身の具体的性質である。これらの要素をもとに消費者のパターン化を行うことによって、コミュニケーションのあり方についてより詳細に検討することが出来る。
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