*「多様なステークホルダー」の想定とCSR経営に対する示唆 CSE経営の基本的課題は、企業活動にいかにして社会性を持たせるかという内容に集約される。社会性の内容は、企業とステークホルダーとの双方向的なコミュニケーションの過程の中で生成・変化していくものであると一般に理解される。しかしながら企業とステークホルダーとのコミュニケーションにおいて、情報に対する感度や解釈の仕方はステークホルダー間において一様ではないという事実は、非常に重要である。 同じ属性でありながら性質の異なるステークホルダーの要請に総括的に応えようとすることは、現実的には非常に困難である。ステークホルダーの類型の複雑化は社会性の内容が拡散することを意味しており、企業がこれに全て十分に応えることは、ほぼ不可能と言えるかもしれない。多様なステークホルダーの存在を前提とする環境下においては、企業が彼らからの要請に綿密に応えるという社会応答的なアプローチには限界があるのではないか。また今日のように高度化・重層化した情報社会の下では、立場の異なる主体間のコミュニケーションにおいて、情報の非対称性のみならず、その拡大や歪み、およびその発生の不確実性までもが想定されなければならない(ステークホルダー・モデルにおける情報環境の想定)。 本研究では、このような環境下においてこそ企業自身のリーダーシップによる、「有益な提言者としてのステークホルダーの育成」か重要であることを主張する。ステークホルダーとの生産的なコミュニケーション無くしては、企業行動の社会的価値も高まることはない。とりわけ消費者というステークホルダーは、質・量およびコミュニケーション経路が多様な存在であり、彼らを「要請する者」としてではなく、「有益な提言者」までに高めた上でコミュニケーションを図ること、そして企業がその育成過程において一定の役割を果たすことこそが、CSR経営自体の価値を高める上で重要である。
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