研究概要 |
今年度(H.20)は、現代企業の投資に関する意思決定を分析する際に考慮すべき二つの要因、1競合企業との市場での戦略的競争と協調、2経営と所有の分離に起因する経営者の機会主義を個別に取り入れたリアルオプション・モデルを設定し、不確実性下における投資の意思決定にそれらの要因が及ぼす影響を分析する研究を行った。 1の研究については、不確実性・企業間の結託による協調・製品差別化が不完全競争下における市場への投資の意思決定に及ぼす影響を分析する研究を行った。この分析から、利潤の不確実性,市場の突発的な消滅の可能性,製品差別化の程度に依存して,戦略的リアルオプション理論がこれまでに示してきた2社の企業がそれぞれ先発企業と後発企業として市場へ投資する競争的な逐次参入に加えて,2社の企業が暗黙の結託を前提として市場へ投資する協調的な同時参入が生じる結果を得た。この結果は、市場参入のパターンと製品の差別化・寿命・利潤の不確実性などの特性との間にある相互依存に有用な示唆を提示すると考えられる。 2の研究については、経営陣の機会主義的行動と人的資本に派生する投資機会を明示的に考慮したリアルオプション・モデルを設定し,不確実性下における投資の意思決定に企業の所有と経営の分離が及ぼす影響を分析する研究を行った。この分析から、私的な価値を最大化する経営陣による投資の意思決定が,企業価値を最大にする意思決定より早まる場合と遅れる場合がある結果を得た。さらに,株主による経営陣への厳しい規律付けが,経営陣の投資へのインセンティブを減退させるため、企業価値の低下につながる可能性を示す結果を得た。また,経営陣の自社株保有は,企業価値を最大化するものに経営陣の投資の意思決定を近づける結果も得た。これらの結果は、経営陣の機会主義と人的資本を考慮した最適な企業統治のデザインに関して有用な示唆を提示すると考えられる。
|