政府が貧困削減政策を実施する際に直面するスクリーニング問題について、昨年に引き続き理論研究を行った。スクリーニング問題とは、政府が各人の生産性を観測することができないという情報の非対称性によって、教育や職業訓練などの機会が不足していて低生産性に陥っている貧困層と、高生産性を有しているが、自ら労働時間を減らしたために貧困に陥っている個人の差別化が不可能であるという問題である。このように、政府が救済すべき対象でない国民を排除することができず、ある一定所得の国民全員に現金支給をすると、貧困削減政策に無駄が生じてしまう。また、高生産性の国民までもが援助や保障に依存してしまい、政策が自助努力を妨げる弊害が生じてしまう。 現在、理論実証の両サイドから研究が行われている対応策のひとつとしてワークフェアシステムが挙げられる。ワークフェアシステムによる貧困層のターゲットはある程度有効であると考えられ、アメリカ・イギリスを始めとする先進国だけでなくインドなどの新興国や途上国にも採用されている。 しかしながら、従来の理論研究では、ワークフェアのメカニズムを実現可能にさせる条件として、本来救済されるべき低生産性の国民の分布が明らかであるという仮定と、国民の所得は政府にとって観測可能である仮定が前提になっているが、途上国の農村地域やインフォーマルセクターにおいては、これらを把握することが難しい。従って、本研究では国民の生産性やその分布だけでなく、国民の所得も観測できない状況で、ターゲッティングを成功させるセルフセレクションメカニズムを構築した。
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