本研究は建国初期中国の冷戦外交、なかでも特に対日外交に照準を合わせ、歴史学的方法を用いた実証分析を目指すものである。具体的には、人道を大義名分として行われた日中間における民間経由の戦後処理、すなわち「戦後日中民間人道外交」に対して中国政府がいかなる理念と戦略をもって臨んだのかを明らかにしようとしている。 全体の研究計画としては、近年公開が進む中国外交部档案(公文書)の分析を基礎に、建国初期中国の対日外交を「理念」と「戦略」に分けて考察するとした。平成20年度は「理念」の面に照準を合わせつつ、特に中華人民共和国の対日戦犯政策実施をめぐる政治過程を中国側一次史料に基づき詳細に再構成することで、建国初期中国の対日政策決定の具体的な過程を明らかにすることを目指した。 成果としては、中国学界の最高峰ともいわれる『中共党史研究』に単著論文として「周恩来与対日本戦犯的処理政策」(中国語論文)を発表し、建国初期中国の対日政策決定における中共中央の政策決定とその貫徹の政治過程という問題をテーマとして扱うことで、極めて高い評価を得ることができた。 また、「戦略」の面については、日中両国の外交文書を網羅的に利用し、1950年代に行われた「後期集団引揚」(冷戦下における共産圏からの集団引揚)に関する単著論文を劉傑・川島真編『1945年の歴史認識』(東京大学出版会、2009年)に発表し、「戦後日中民間人道外交」に込められた建国初期中国の冷戦外交戦略の一端を明らかにすることに成功した。
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