本研究は、子どもの心の理解能力の発達を促進すると目されている、養育者が子どもの心に焦点化する傾向について検討した。乳児の母親を対象に、(1)乳児の心を読みとろうとする程度の測定と個人差の検討、(2)乳児の心の読みとりにおける認知的特徴と、乳児への具体的な養育行動の関連、(3)母親が示す乳児の心に対する認知的特徴、および養育行動による、乳児の心の理解能力への影響、の3点について調査と分析を実施した。 調査1年次は、生後6ヵ月児の母親の乳児の心に対する焦点化傾向(mind-mindedness : MM)を測定するとともに、母子遊び場面での母親の養育行動の観察を開始した。本年度は継続して調査を進め、6ヵ月時の調査が終了した母子を順次追跡し、9ヵ月時点で再び母親の養育行動を観察した。9ヵ月児には他者の心の理解能力として他者の指さし理解の実験を実施した。 6ヵ月時の調査結果から、母親は全般的に乳児の心に目を向けようとする傾向を持つが、同時に、母親間の個人差が大きいことが示された。母親の養育行動をemotional availability(EA)の視点から分析した結果、乳児の状態に合わせて応じる「敏感性」や、子どもとやりとりを一緒に作る「構造化」に母親間でばらつきが認められた。MMとEAの母親個人内の関連について、相関関係ではなく、中程度の高さのMMを持つ母親が、最もEA「構造化」得点が高いことが見出された。乳児の心について考える認知的特徴を「中程度に」持つことが、子どもにとって適切な養育行動と関連しており、母親の特徴について単純な量的豊富さのみを議論することへの見直しが示唆された。9ヵ月時の調査から得られたデータについて、今後、母親の養育行動とMMとの関連、および、MMやEAと乳児の指さし理解能力との関連を分析し、成果発表を行う。
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