本研究では、実験的研究の方法論にこだわり、実験会計学における方法論研究の重要性を明らかにした。その主たる論点は、方法論のモデル化による方法論を媒介とした制度設計と社会科学の総合化(学際的研究)とにある。また方法論をモデル化するプロセスにおいては、実験会計学の全体像と個別論点とが明らかになった。 当初、本研究は、実験会計学における研究方法(手順)のマニュアル作りを念頭において進められた。しかし研究を進めるうちに、実験会計学だけではなく実験的研究全般において、方法論研究は単なるマニュアル作りにとどまらないことに気付いた。実験会計学研究を進める上で、方法論を厳密に(精緻化)する意義は、ある前提の下で理論モデルを実験的に検証することによって、「何が分かったのか」と「何が分からなかったのか」とが明確になる点にある。ある理論モデルを制度設計に活用しようとするとき、その理論モデルを用いることができる範囲の境界線(「できること」と「できないこと」との境界線)を引くことができる。本研究では、方法論のモデル化によって、モダニズム(近代科学)モデルとポストモダニズム(社会的構築主義)モデルとの協働による制度設計が可能になることも明らかにした。また、「できること」と「できないこと」との線引きは、他の研究者による追再実験や修正実験に対しても、「これまで明らかにされたこと」と「これから明らかにされること」とを判断するための材料を提供する。 近年、哲学の領域においても実験的研究(実験哲学)が注目されているが、方法論的には、まだ精緻化されていない。本研究の成果から、方法論を媒介として、会計学は社会科学領域だけでなく哲学の領域とも学際的な交流が可能になると期待できる。
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