研究概要 |
現実の育児・保育場面では,多くの先進国において絵本などのメディアが利用されているが,これらが乳幼児に及ぼす影響については不明な部分が多い.親・保育者の経験則に基づいてメディアが選定され,利用されているのが現状である.つまり,大人の観点から選定されたメディア,またそれらの使用法が,乳幼児の実際の認知に合致しているかどうかは,科学的・実証的には未だ明らかでない.これを明らかにするためには,まず乳幼児と親・保育者それぞれのメディアに対する認知がどのようなものかを検討し,比較する必要がある.本研究では,絵本を見ているときの乳幼児・成人の眼球運動を解析・比較し,乳幼児のメディア認知を成人との比較から明らかにすることを目的とした.実験の結果として、成人は絵本の文字の領域から見るが、乳児は絵の領域から見ることが確認された。加えて、4歳以降から文字領域を注視する時間が増加し、絵本によって文字領域に対する注視時間が異なる傾向もみられた。その一方で、絵本ごとの注視時間には大きな差異は認められなかった。保護者に対してアンケート調査を行った結果、子どもに読み聞かせをする絵本にはある程度の多様性があるが、ほとんどの保護者が利用している絵本も存在した。これにはブックスタート運動などにより、ある程度有名な絵本が勧められていることが影響していると思われる。全体として、乳幼児は絵本ごとに明らかな好みの違いを示さなかったが、絵本ごとの注視パタンには若干の違いが見られた。一方、保護者の側では、ある程度決まった絵本が選定される傾向があった。今後、絵本に対する乳幼児の認知過程とそれに適合する絵本等の特徴についてより詳細に検討していくことが必要だと考えられる。
|