本研究の目的は、工業高校における生徒(以下、工業高校生と呼ぶ)の自己概念(Self-comcept)の形成過程を明らかにすることである。 研究代表者はこれまで、工業高校生が形成する自己概念の構造を明らかにし、同時に自己概念の形成状況を把握するための心理測定尺度を作成している。本研究では、本尺度を用い、自己概念形成との関連性として、日々の学校生活や教科以外の各意識に着目し、これらの影響力の検討を試みた。 その結果、平成20年度の研究成果として、以下の内容を明らかにすることができた。 1、工業高校生の自己概念と勤労感との関連性 卒業を控えた工業高校生3年生を対象とし、自己概念と働く意識(勤労感)に関する調査を実施した。この結果、自己概念の学校や社会の規範を重んじる価値観や心構えに関する意識が、卒業段階において勤労観に広く影響を及ぼしていることが示唆された。また、学科の専門性に関連する業種に就職した生徒と、関連のない業種に就職した生徒の間に意識の差異が認められた。 以上の成果は海外を視野に入れての検討を図るため、技術教育に関する国際シンポジウムにおいての発表、および学術誌については教科教育に関する国際誌への掲載をもって公表している。 2、工業高校生の自己概念と対人関係スキルとの関連性 生徒の自己概念と日々の生活における対人関係において、共感的コーピングに焦点をあて、検討を行った。共感的コーピングとは、ストレス状況下での対人関係において、良好な関係を維持しようとする意識である。本研究では、工業高校生1年生〜3年生を対象とし、形成された自己概念が共感的コーピングに果たす役割を検討した。その結果、工業高校生としての自己概念形成は、ストレス環境下における対人関係スキルに向けた意識の形成に一定の役割を果たしていることが明らかとなった。 以上の成果は、国内の関係学会での口頭発表をもって公表している。
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