2008年度にTc=50Kを越える全く新しいタイプの高温超伝導体が鉄ニクタイド化合物において発見され、その発見の重要性、及び研究の緊急性から、本年度は鉄ニクタイド系高温超伝導体の電子構造の研究を主に行った。鉄ニクタイド化合物は、層状化合物で、母物質に電子型・ホール型のドープが可能であり、更に3d遷移金属による磁性相周辺で超伝導が発現する、というような銅酸化物高温超伝導体と極めて類似した特質を持っている。高温超伝導機構に普遍的なものは何かを知る上で、鉄ニクタイドの研究は大いに役立つはずであるという観点から、我々はいち早く大型の単結晶を入手し、高分解能角度分解光電子分光法によりフェルミ準位近傍の微細電子構造の研究を行い、以下に述べる成果を得た。(1) フェルミ面を実験的に決定し、鉄ニクタイドが複数のホール面と複数の電子面をもつ多バンド超伝導体であることを明らかにした。(2) 各フェルミ面における超伝導ギャップの観測に世界に先駆けて成功し、その大きさは等方的であるが、フェルミ面により異なる事を明らかにした。(3) 122系の鉄ニクタイドにおいて、電子ドープ型、ホールドープ型の両相におけるARPESに成功した。(4) 過剰ドープの試料についてもARPESを行い、バンド構造・フェルミ面を決定した。(5) 最適ドープ試料において、電子バンド分散の異常(kink構造)がTc以下で現れる事を明らかにした。(6) 試料のドープ量を系統的に変えた実験により、反強磁性相互作用によるバンド間散乱が超伝導にとって重要である事を見いだした。以上の結果は、国内外から大きな反響を呼び、複数の国際会議から招待講演を依頼され、また国内の主要新聞誌にも記事が掲載された。
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