今年度の主な研究成果は、三角圏の「弱安定性条件」の空間の概念を導入したことである。三角圏の安定性条件の概念はBridgeland氏により導入されていたが、彼の定義に基づいた安定性条件を3次元カラビーヤウ多様体の連接層の導来圏上に構成する方法は現在のところ知られていない。私が導入した「弱安定性条件」の概念はBridgelandの安定性条件に必要なデータを一つ付け加えたものであり、対称性が失われてしまう代わりにその構成は遥かに容易になる。更に弱安定性条件から定まる(半)安定対象を数え上げるDonaldson-Thomas型の不変量を構築することができ、その壁越え現象をJoyce-SongやKontsevich-Soibelmanらの技術を用いて解析することが可能になった。これを応用して、Pandharipande-Thomasによる曲線のイデアル層と安定対の間の対応を実現することが可能になり、この結果を論文「Curve counting theories via stable objects I.DT/PT correspondence」に纏めた。また、一般の3次元フロップ収縮から出発してDonaldson-Thomas不変量と(大域的な)非可換Donaldson-Thomas不変量、フロップのDonaldson-Thomas不変量との関係も弱安定性条件の空間を用いて記述することが可能になり、この結果を論文「Curve counting theories via stable objects II.DT/ncDT/flop formula」に纏めた。これまでのDonaldson-Thomas不変量の研究はRankが1の場合のみに焦点が置かれていたが、上記の壁越え公式を用いることによりより高次の階数の不変量も計算することが可能になる。Rank 2の場合の計算を「On a computation of rank two Donadson-Thomas invariants」に纏めた。
|