恒星の長期的変動や突発現象を探査するため、歴史的文献の収集と星図・星表に記録された天体のデータ解析を行った。過去に収集してきた歴史的記録について、変動天体や突発現象を探査する前に当時の観測精度(記録誤差)を知らなければいけない。最初にJohanne Bayer「Uranometria」(1603年)の星図を解析の対象とし、各星図に描かれた天体の同定と記録位置を測定した。座標値については、数値化されたデータとの比較が必要だったため、出版年代が近いTycho Brahe「Astronomiae Instauratae Progymnasmata」(1602年)の恒星表を参照すべく、この星表の解析も同時に行った。 「Astronomiae Instauratae Progymnasmata」の恒星表には777天体の記録があるが、何列かの空欄と誤植が見られたため、フランス・パリ天文台にて別版の調査を行い、記録の訂正を行った。天体の同定に使用するため、恒星の位置を高精度で測定したHipparcos衛星のデータ「Hipparcos Catalogue」を用い、当時の観測分点である1600年へ座標の変換と赤道座標から黄道座標への変換を行った。歴史的文献の記録と、近代のデータを用いて計算した座標と比較を行った結果、全777天体中738天体の同定ができ、その観測精度も算出することができた。これらの研究成果については、研究会や学会で発表を行い、一部論文としてまとめた。 同定できなかった39天体に関しては、本研究の対象となり得る変動天体が含まれている可能性が高く、また、Johanne Bayer「Uranometria」と共通で記録されている天体も含まれていることが分かった。今後は他の歴史的文献におけるこれらの天体の記録を調査すると同時に、近代の多波長観測データとの対照も行い、物理的特性の詳細な調査を行っていく予定である。
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