本研究では、新たに発見された鉄系超伝導体LaFeAsO_<1-x>F_xが示す、超伝導転移の非常に大きな圧力効果の起源を解明するために、同種の結晶構造を有する"1111"型化合物について圧力効果の系統的な調査を行った。母物質であるLaFeAsOは、常圧下では構造相転移と反強磁性転移を示し、超伝導転移を示さないが、圧力を加えることで、構造相転移と反強磁性転移を抑制でき、12GPaで21Kの圧力誘起超伝導転移を示すことが明らかとなった。これは、F置換と同様に、構造相転移の抑制によって、低温まで正方晶が保たれることによって超伝導が出現したものと考えられる。Ca(Fe_<1-x>Co_x)AsFの母物質CaFeAsFについても同様に、構造相転移の抑制により圧力誘起超伝導転移を示すことがわかった。CaFeAsFでは、5GPaで超伝導が出現し、その転移温度は最大29Kと、LaFeAsOよりも高い転移温度を示すことから、CaFeAsF系はLaFeAsO系よりも高い超伝導転移を示す可能性があると考えられる。しかし、Co添加によって常圧下で超伝導転移を示すCa(Fe_<1-x>Co_x)AsFについては、圧力による超伝導転移の上昇は1K以下と小さいものであった。LaFeAsO_<1-x>F_xではF濃度が高いほど圧力による超伝導転移温度の上昇が大きいが、Ca(Fe_<1-x>Co_x)AsFではCo濃度が増すにつれ、圧力による転移温度の上昇が小さくなることがわかった。この結果はFeAs層への直接的なドーピングによって超伝導層に結晶歪がはいったためと考えられ、CaFeAsFのCaF層からのドーピングによって、更に高い転移温度が期待できると考えられる。鉄系超伝導体の中で最もシンプルな結晶構造をとるFe(Se_<1-x>Te_x)は、Te濃度が増すと共に、超伝導転移の圧力による上昇は小さくなり、x=0.8以上では圧力による上昇はみられなかった。Fe(Se_<0.5>Te_0.5)では3GPa以上で単斜晶への相転移が存在することが確認されており、Te濃度の置換によって、高圧相が安定化し、低圧側にシフトするために超伝導を不安定化しているものと考えられる。
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