本研究は、太陽風中の磁気流体乱流(MHD乱流)の発展過程の解明へ向けた、太陽風アルフェン(Alfven)波のパラメトリック不安定性の新しい理論の構築を目的としている。今年度は、前年度の研究結果を受ける形でより詳細な太陽風プラズマの性質とMHD乱流の発展・減衰過程の関連性・独立性の精査を進め、以下のような知見を得た:(A)パラメトリック不安定性が非常に弱い場合でも、振幅変調による非線形ランダウ減衰によってイオン加熱が生じること、(B)一方で、変調不安定性が生じた場合には波動間の位相相関による急峻な波束が形成され、非線形ランダウ減衰により主に減衰する場合とで磁場の振幅に2倍近くの差ができること、(C)このような波束は相対運動する磁場構造による加速("ソリトン加速")などによりイオンの平行方向に加速に大きく寄与すること、(D)有限振幅の電磁波による"非共鳴捕捉"による擬似的な垂直方向の加速がワレンの関係で表される"アルフェン的な"平衡状態を表す位相空間での平衡点周りの非線形捕捉として生じ、その捕捉領域が実際の太陽風中で観測されるイオン分布と同様の平行方向の速度に対して非対称な形をしていること、(E)非共鳴なアルフェン乱流の非線形発展においては"見かけ上の"温度異方性として蓄えられているイオンの垂直方向のエネルギーが局所的な熱エネルギーに対応する"実質的な"温度異方性に変換されていること。これらの結果は太陽風中で観測されるような温度異方性を伴う非対称なイオンの速度分布の形成には、パラメトリック不安定性だけではなく振幅変調に伴う非線形ランダウ減衰や太陽表面の磁束管におけるMHD乱流(磁場擾乱)の振幅増幅過程も深く関わっていることを示唆している。
|