研究課題
磁性(スピン)と伝導(電荷)の結合した現象は現代の物性物理学における重要な課題の一つである.本研究では特に強相関効果によって絶縁化した磁性有機伝導体に焦点を絞り、その磁性と伝導の相関について調べる事を目的とする.昨年度までの研究で鉄フタロシアニン伝導体TTP[Fe(Pc)(CN)_2]_2において低温で4桁以上にも及ぶ巨大な負の磁気抵抗を観測し、その起源が何らかの磁場誘起相転移(転移磁場約15テスラ)によるものである事を明らかにしてきた.平成21年度は27テスラまでのより強磁場中で磁気抵抗、磁気トルク測定を行う事により磁気相転移の詳細を明らかにした.その結果,15テスラ付近での磁気相転移はフタロシアニン分子中の鉄スピンの反強磁性相関が強磁場を印加することで破壊され、スピン配列が強磁性的になる事によるものである事が明らかになった.またこの系では結晶中に磁化容易軸の異なる4種類の伝導鎖が存在するが、それらが同一の磁場で磁気転移を起こすような磁場方位では磁気抵抗の変化がさらに巨大になり6桁程度変化する.これらの結果について国内外での学会・研究会および誌上にて成果発表を行った.また昨年度はTTP[Fe(Pc)(CN)_2]_2の電子スピン共鳴(ESR)において異常なg値を持つ信号を観測した.今年度はさらに解析を進めたがその起源については未だ解明できていない.しかし、磁気的な単位胞に存在するスピンを単純に足し合わせただけでは実験結果を説明する事はできず、何らかの多体効果を考慮する必要があると考えられる.
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J.Phys.: Conference Series 150
Phys.Rev.B 80
ページ: 085110-1-6