研究概要 |
近年、我が国において、隣国の経済成長にともなう越境大気汚染が深刻化している。しかしその定量的な影響評価は十分になされていない。海洋研究開発機構では、大気汚染源から適度に離れており、気象場から汚染源を特定し易い位置にある沖縄県辺戸岬(東経128.25度,北緯26.87度)において、これまでにない新しい手法(MAX-DOAS(Multi AXis Differential Optical Absorption Spectroscopy)法)をもちいた大気組成の連続観測を2007年3月末より開始した。MAX-DOAS法はエアロゾルやオゾンに加え、それらの生成過程で重要なSO2,NO2とHCHOを含む多成分を同時に、かつ高い鉛直分解能(例えば1km)で連続して観測することができる。そのため日変化や、短寿命種(NO2)の大陸からの輸送、生成・消滅過程を調べることができる。エアロゾルデータ(波長476nm)について、他の地上観測データ(ライダー観測データおよびスカイラジオメータ観測データ)と比較・検証し、季節・季節内の変動におけるMAX-DOASによるエアロゾル観測の妥当性を示した。光化学的寿命が短いNO2については、夏季は極めて低濃度であるが(多くの場合高度0-1kmで0.3ppbv以下)、冬-春季に1ppbvを超える高濃度のNO2がしばしばみられることが明らかになった。気象場の解析から、中国からの速い大気の輸送(およそ24時間以内)によりNO2が増大することがわかり、大陸から700km程離れている辺戸岬においてもNO2の変動が中国からの越境輸送によって支配されていることが初めて明らかになった。
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