本研究は、熱、光および電場などの外部刺激がもたらす分子構造変化の仕事量を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて定量的に評価し、人工筋肉のコンポーネントやMEMSにおけるアクチュエータの性能を決定する方法、『単一分子の仕事量測定法』を確立することを目的とした。 昨年度は、ガラス表面上をミオシンフィラメントで修飾し、ATPの導入によりフィラメント上を移動するアクチン集合体の運動量測定を試みた。まずAFM測定によって表面上のアクチン集合体を探す。次に、集合体を探針で捕捉し、ATP導入時におけるアクチンの運動量をフォースから見積もるというフローで実験を行った。ガラス表面をミオシンによって修飾し、修飾ガラス表面上でアクチンを観察することは成功したが、アクチン密度の制御、およびAFM探針によるアクチンの捕捉が困難であった。そこで本系の改良のためのモデルとして以下の2つのことを行った。 1.グラファイト表面にパーフルオロスルホン酸系ポリマーを含む水溶液に導入し、ポリマーによる表面修飾の原理・原則の解明に挑戦した。溶液中でミセル構造をとる同ポリマーは、表面に吸着すると表面原子の配列に沿って伸長し、非常に高度に配向したドメインを形成することを見出した。 2.ジアリルエテンを半導体電極表面に固定し、末端に電子受容体であるビオロゲンを連結させた。ジアリルエテンの光異性化反応により、半導体電極からビオロゲンへの電子移動を制御する光スイッチング分子素子を作製した。今後は人口筋肉のモデル系として、固体表面に固定されたジアリルエテンをAFM探針で捕捉し、光スイッチング時の運動量評価を行う。
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