研究概要 |
芳香族分子を有限集積し、スタッキングする順番を自在に制御することで、新たな機能の発現を期待できる。電子ドナー性分子(D)と電子アクセプター性分子(A)の間に働く電荷移動(CT)相互作用を駆動力とする自己組織化は、異なる芳香族分子からなる集積体の構築手法として有力である。しかし、自己組織化は熱力学的に最安定な構造を与えるため、DとAがスタッキングする順番は、一般的にD-A-D-A-…のような交互配列になる。一方、自己組織化かご状錯体1は、内部に2つのドナー2(ピレン、ペリレン、トリフェニレン)を集積し、芳香環4重集積体1・(2)_2を構築する。錯体1の上下はアクセプター3(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)で構成されるため、集積体1・(2)_2は対称配列A-D-D-Aを与える。そこで本研究では、ナフタレンジイミドを第2のアクセプター4として用いることで、非対称配列A-D-A-Aを有する4重集積体1・(2・4)を構築した。集積体の対称性を崩すことで、集積した芳香族分子の交換挙動を初めて観測した。 配列A(3)-D(2)-A(4)-A(3)を有する集積体1・(2・4)の^1H NMRスペクトルから、配列の中心のゲスト分子2,4が互いの位置を速く交換していることがわかった。温度上昇に伴い、集積体1・(2・4)の上下で2つに分裂したシグナルは近づき、最終的に1つに融合した。これは、2つのゲスト分子がNMRのタイムスケールよりも速く交換し、集積体1・(2・4)の上下の区別がなくなったことによる。^1H NMRスペクトルを線形解析することで、交換の速度と活性化ギブズ自由エネルギーを算出し、ドナー2はピレン<ペリレン<トリフェニレンの順番で安定に集積されることがわかった。錯体1内の2つのゲスト分子は連結されてもなお、交換挙動が存在した。
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