研究概要 |
希土類金属イオンを含む錯体は、精密設計が可能な磁気材料、蛍光材料、触媒として注目されている。磁気材料の観点から見ると、希土類金属錯体はほとんどが磁石としての性能を示さない常磁性体であり、材料としての応用範囲は狭い。現在までに知られている希土類強磁性錯体は、シアノ基によって遷移金属イオンと希土類イオンが架橋された異核集積型金属錯体のみである。本研究では、共役多座配位子1,2,4,5-tetrahydroxybenzene (THB)を用い、三次元ネットワーク希土類金属強磁性錯体Na_5[Ho(THB^<4->)_2]・7H_2Oを合成することに成功した。この錯体は、キュリー温度11K、保磁力170Oeを有する強磁性であることが明らかになった。これは、希土類金属イオンのみからなる錯体で強磁性転移を示す初めての例である。合成は、アルゴン雰囲気下において、THBとHo^<III>(NO_3)_3の混合溶液にNaOH水溶液をゆっくり拡散することにより、目的のホルミウム錯体単結晶を得た。単結晶構造解析より、Ho^<3+>イオンは、4つのTHBが2座配位し、計8個の酸素原子が配位した、8配位dodecahedron(D_<4d>対称)構造をとっていることが明らかになった。4方向に伸びた配位子とHo^<3+>イオンが無限に連なった三次元ネットワーク構造を有していることが分かった。キュリー温度より分子磁場理論を用いて計算されたHo^<3+>イオン間の超交換相互作用J_<Ho-Ho>は+1.0cm^<-1>であり、過去に報告されている3d-4fネットワーク錯体HoFe(CN)_6(T_C=1.3K,J_<Ho-Fe>=-1.0×10^<-1>cm^<-1>),HoCr(CN)_6 (T_C=1.7K,J_<Ho-Cr>=-1.2×10^<-1>cm^<-1>)の値より大きなものであった。このホルミウム錯体において磁気秩序が生じた原因は、ドナー性の強い(E_<1/2>=0.79Vvs.Ag/Ag^+)配位子のp_π軌道からホルミウムイオンの5d軌道への電子供与が起こり、4f-5d間のカップリング、それに付随した4f-5d-p_π-5d-4f間のカップリングが有効に働いたことによるものと考えている。
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